はじめに
今回は第二言語習得研究の立場から、最適なインプット・アウトプットをご紹介します。言語を科学的に考察した観点から「どのように知識を吸収して・言語を使えば良いのか?」の疑問に答えます。英語学習のヒントが詰まっているはずです。
Contents
第二言語習得研究
第二言語習得研究とは
第二言語習得研究(Second Language Acquisition)とは、母語でない言語をどのよう学習するかを研究する学問。第二言語習得の全貌を明らかにするためには、他の学問領域の研究も必要になります。なぜなら、第二言語習得の過程には様々な要素が複雑にからまっています。
第二言語習得は「ことば」を研究対象にするので、言語学の知見が必要になります。さらに、学習や記憶のメカニズムを解明する必要があるので心理学の知識も必要でしょう。また、言語は社会と繋がるために必要となるので社会学の領域にも及ぶこともあります。最後に、教師の視点から言語の指導を考えると、教育学の知見も必要不可欠です。
Gassの認知モデル
第二言語習得研究の理論の中で、代表的な理論がGassの認知モデル(1997, 2013)です。彼女は、第二言語学習者がインプットからアウトプットに至る過程を4つのプロセスに分解しました。
- 気づき(noticing):情報を短期記憶に保持する
- 理解(comprehension):保持した情報を意味、形式、機能など多様なレベルで処理
- 内在化(intake):理解した情報を中間言語へ取り組む
- 統合(integration):知識を長期記憶として貯蔵し、処理の自動化を図る
第二言語習得研究理論
第二言語習得研究のおおよその全体像をつかむためには必要なことがあります。
- 4つのプロセスでは何が起こっているのか?
- 4つのプロセスを効果的にするには、どんな力が必要になるのか?
- 4つのプロセスをより効果的にするには?
第二言語習得プロセスを示し、「自分がどこに弱点があるのか?」「自分はどこが逆に上手くいっているのか?」そんなフィードバックを与えることが今回の目的です。
インプット
インプットの高め方
インプットの質を高めるには、頭の中で行われる第二言語の認知プロセス(気づき→理解→内在化→統合)をいかにスムーズに行うことが大切です。闇雲になんとなくインプットしてはだめということです。一つ一つポイントを見ていきましょう。
気づき(noticing)
まず始めに、インプット強化と呼ばれる方法があります。例えば、教師が大事な項目に下線を引いて、特定な文法や項目に注意を喚起させる方法です。学習者は視覚的に、今特定の文法を学んでいると気づくことができます。
インプット強化は学習者自身も実践できます。例えば英文読解をしている時に、なんとなく英文を読むのではなく、助動詞に線を引きながら本文を読みます。すると、「今は助動詞を学習をしている」という気付きが得られます。
もう一つは、インプット処理と呼ばれる方法です。これは、学習者に「言語形式」と「意味」の結びつきに気づかせる方法です。例えば、教師が英語学習の文法指導の場面で、まず始めに関係代名詞の説明をします。その後、教師は関係代名詞を含む構文の和訳問題を連続で解かせます。生徒は「この関係代名詞を使うと、こういう意味になるのだ」と気づくことができます。
学習者自身が実践できる方法もあります。例えば洋書を読み進めながら、全ての関係代名詞を隠して、意味を確認しながら適切な関係代名詞を予測するトレーニングです。意味から特定の関係代名詞という形式を推測する練習になります。
理解(comprehension)
次のステップは理解です。簡単に見えますが、そもそもどこまで理解できれば「自信を持って理解できた!」と言い切れるでしょうか。このあたりが難しそうです。
例えば、英単語の意味だけを覚えることができれば、十分に理解できたと言えるでしょうか?答えはノーです。実は、英単語の意味に加え、「単語がどのような形式で使われるか?」「単語が文中でどのような機能を果たすのか」を理解する必要があります。
なぜでしょうか?実は、理解にも浅い理解と深い理解があります。
- 浅い理解:情報の意味だけを理解
- 深い理解:情報の意味に加え、形式や機能も理解している
深い理解をすることで、すぐ忘れてしまう短期記憶から長期記憶へ変換を促すことができます。では、単語を深く理解する達成するためにどうすれば良いのか?
必要なことは、英単語を覚える際に、その単語がどんな形で、どんな意味で、どんな場面で使用されるのかを意識して理解に努めることです。
- 形式:どんな形で
- 意味:どんな意味で
- 機能:どんな場面で
そうすれば単語を深いレベルで理解することができます。例えば、英単語も意味とだけ関連付けて覚えるのではなく、本文の中で覚えてしまえば同時に形式や機能も理解することができます。英単語を単語帳で覚えるのではなく、長文読解をしながら覚えるのには理由があるのです。
深い理解をすることで、自問自答することができるようになります。
- 「あの表現ってこういう意味だよね?」
- 「おそらくこういう場面で使えば言いんだよね?」
これらの心の声によって、自分なりの仮説を立てることがきます。実は、これが次の内在化への大切なステップになります。
内在化(intake)
内在化では、すでに自らの知識=情報と、新しく入ってきた情報(インプット)の比較を行います。つまり、仮説検証が行われます。
仮説検証の絶好の機会となるのが、交流会でしょう。例えば、英会話の交流会に行って、英語が全く聞き取れなかったとします。その時に勇気をもって返答します。
- 「なんて言いましたか?(What did you say?)」
- 「これはあなたが言いたかったことですか?(Is this what you mean?)」
聞き返しや確認をすることで、「どこが理解できてなかった」・「何が難しかった」とか自分の理解度を確認することができるでしょう。
インタラクション仮説によれば、学習者はインタラクションの活動に参加することによって、分からないことを聞きかえすなどの意味交渉が起こるというのです。したがって、積極的に仮説検証ができるインタラクティブな交流会に参加することが必要です。
統合(integration)
統合はインプットにおける最終ステップであり、最も重要なプロセスになります。新たな言語知識として取り込んだインプットを長期記憶内にとどめ、効果的にアウトプットするための大事なステップです。
なぜ統合が大切なのでしょうか?実は、的確に統合されなかった情報は短期記憶として処理されてしまい、忘れ去られてしまいます。第二言語学習の成功の是非を分けるのは、この統合のプロセスに問題があることが多いのす。
実は、統合にはかなりの反復作業が必要になります。一度や二度で統合できるわけではありません。しつこいほどの繰り返しの学習が必要になります。統合を促してくれるのが次に紹介するシャドーイングです。
シャドーイング
シャドーイング(Shadowing)とは英語を聞きながら、その音声を真似して発音する訓練です。通訳の訓練にも使われているメソッドです。シャドーイングは、聞こえてくる英文のすぐ後ろを影(shadow)のように追いかけるのがポイントになります。
シャドーイングは、言語知識の自動化を促進する効果があると言われています。それだけではなく、短期記憶の発展を促す効果も期待できるようです。
アウトプット
U字型発達曲線
アウトプットの役割を考える際に、参考になるのがU字型発達曲線と呼ばれる理論です。U字型発達曲線は、言語の創造的な使用がどのようなプロセスで実現されるかの示唆を与えてくれます。
- 第1段階:言語をそのまま暗記
- 第2段階:規則や法則を抽出
- 第3段階:創造的に言語使用
第1段階では、目標となる言語をそのまま丸暗記します。正確性は高いですが、表現が限定的な状態です。第2段階では、正確性が減少しますが、トライ&エラーを通して一般的な規則を抽出できるようになります。第三段階では、あらゆる状況で柔軟な言語使用が可能になっていきます。
アウトプットの役割は、実践的な言語使用を実現するために、失敗を繰り返し確かな規則を自分で見つけていくことだと言えます。
アウトプットの役割
スウェインは地元カナダのトロント大学で英語母語話者のフランス学習について研究していました。当時、彼女はカナダはフランス語のインプットを大量に取り入れることができるカナダは、理想的な学習環境だと考えていました。
いざ学習成果をみてみると、リスニング能力はネイティブ並みの伸びが確認されましたが、文法能力や社会言語能力には期待したほどの伸びは確認されませんでした。その原因は、アウトプットの機会が不足しているからだと主張しました。すなわち、どれほど回りの環境が良くてもアウトプットの機会がないと伸びが限定されてしまうということです。
- 自らの第二言語能力の穴に気づくことができる
- 自らの中間言語に関する仮説を検証する機会が生まれる
- アウトプットはインプットとは異なる言語処理を促進する
- 言語知識の自動化を促進する
スピーキングのプロセス
アウトプットの代表であるスピーキングの仕組みについて考えていきましょう。その仕組みやプロセスを解明することができれば、「どこに問題があるのか?」「どこを改善すれば良いのか?」が明らかになります。
まず、自分の伝えたい想いを形成するための概念化です。例えば、今お腹がすいているなと感じたとしたら、「お腹が空いたなと」心の声が生まれてきます。英語も日本語と同じように、自分事のように考える。あるいは、自分の本音を語ることが大切です。
次は形式化です。形式化には3つのステップがあります。
- 語彙・文法コード化
- 形態・音韻コード化
- 音声コード化
①は、頭の中の辞書から必要な単語を検索する作業です。「お腹が空いたなと」という心の声を言葉に変換するプロセスです。空腹という単語を頭の中から探して「hungry」という言葉を見つけます。文法情報から、「主語+Be動詞の後に形容詞をもってくる」と考え「I am hungry.」が形成されます。
②は、「hungry」を「hʌŋgri」という発音記号に変換して、音韻情報を準備します。強くアクセントする場所も確認します。
③は、音声コードを形成するために、実際英語の音を発音する口に意識が向けられます。舌の位置や口のあけ方を整えれば音声コード化の仕上がりです。
最後の調音化は、実際に「I am hungry」と発話するプロセスを指します。
流暢なスピーキングを実現するには?
流暢なスピーキングを実現するための方法はいくつかありますが、チャンクを活用したスピーキングが即効性が高いと言われてます。チャンクを活用したスピーキングとは、単語と単語のかたまりを活用したスピーキングです。チャンクの種類は以下の通りです。
- 句動詞:take in、come back
- イディオム:get along with、a piece of cake
- 固定フレーズ:of course、at least
これらのチャンクは英語の母国語話者が脳の中の辞書に、単語に分解せず蓄えているとされています。したがって、チャンクを活用することで、文の構築が楽になり、より自動化した発話が可能になります。